2013/11/30

君に友だちはいらない

瀧本哲史『君に友だちはいらない』を読んだ。満足度★★★★★。

とても刺激的なタイトルだ。その心は、必要なのは友達ではなく仲間。しかも「ウィークタイズ(弱いつながり)」。秘密結社を作れ。副題は「The Best Team Approach to Change the World」。

瀧本哲史さんの本は『武器としての決断思考』『武器としての交渉思考』がとても面白かった。仕事にも役立っていると思う。『僕は君たちに武器を配りたい』は、まだ読んでいないので、読んでみたい。



【語録】

「既存の組織や枠組み」に替わって、「個人が緩やかなネットワークでつながり、その連携の中で学習や仕事をし、プロジェクトベースで離合集散する」という世界観が現実のものになりつつある。

常に複数の緩やかなつながりを持った組織に身をおき、解決すべき課題を見つけて、共通の目標に「仲間」とともに向かっていくこと。これがグローバル化が進展する時代に、人々が幸福に生きるための基本的な考え方になるはずだ。

パラダイム・シフトは「世代交代」が引き起こす。古いパラダイムを信じている前の世代を説得して意見を変えさせるのは不可能であるし、それに労力を注ぐのは時間の無駄だ。自分達の信じるパラダイム、必要とされるパラダイムの信奉者を少しずつ増やしていく。そうやって「仲間」を作っていくうちに、いずれ旧世代は死に絶えて、新たなパラダイムの時代となる。

世の中を変えるのは、いつの時代も「新人(ニューカマー)」である。新しいパラダイムが必要になっているというのは、これまでの価値観が役に立たない状況になっているからだ。全く、前例が通用しない状況の中で、新たな環境にいち早く適応し、生き残っていくのは、常に若い世代なのである。

新しい事を始めようとしている人、若い人達に必要なのが「チームをつくる」ことなのだ。新しい価値観も、新しいパラダイムも、一人の力だけでは世の中に広めていくことは難しい。自分のビジョンを共有し、その実現に向けて行動する仲間を見つけ出して、初めてスタートラインに立つことができる。

世界で結果を残すために、最も重要なことを一つ上げるとすれば、それは「相棒」、つまり「ビジネス・パートナー」だ。ネイティブの信頼できるパートナーを見つけられれば、日本人の僕より10倍、100倍早く仕事が進んでいく。

異国の地で、信頼できるパートナーを見つけ出すためには、どうすればいいのか。「シンプルなプレゼン」が大切。外国人へのプレゼンテーションは、シンプルなアイデアでないと伝わらない。僕は事業について、2枚の写真で説明する。0点の答案写真と、東進でのDVD授業を受けた後の答案の写真。

もう一つ大事にしているのが、「俺はやっているぞ」と「後ろ姿」を見せること。実際に取り組んでいて、結果を出していることが伝われば、「コイツはマジなんだ」と分かってもらえる。

チームで活動するようになって感じるのは、「本当の仲間は一朝一夕にはできない」ということ。楽しい時も、辛い時も、一緒に過ごして初めて魂が通じ合うような関係を築ける。沢山の問題に直面し、それを乗り越えていくたびに関係性が強くなった。その関係を「laugh & tough」と呼んでいる。

一人の個人が持っている「強み」だけで、立ち上げから数百億円の売り上げを達成するまでに、会社を大きく成長させることは、まずえりえない。会社の成長スピードに合わせて、その時点での成功に必要な人材を、どこからか探してきて、評価をして、「人に投資する」必要が出てくるのだ。

多くのベンチャー企業が「設立3年以内に倒産」するが、その大きな理由の一つが「必要な時に、必要な人材を集めることができなかったから」なのである。

モノも知識も、沢山持ち過ぎると、それを自分がコントロールしていると思っていながら、逆にそれらに縛られてしまうことがある。いわゆる「専門バカ」がそれだ。ある分野については膨大な知識を持っているがゆえに、それ以外の視点からは物事が見えなくなってしまうのだ。

それを防ぐためにも、時々は自分の持つ「モノ」や「知識」を手放した方が良い。これは勇気のいる事だが、「持っているものが多い」が貴いのではなく、「必要なものが少ない」のが貴いのである。

「教養」の持つ大切な機能の一つが「自分と違う世界に生きる人と会話ができるようになる」ことだ。「外国語の習得」もそのためにある

「見晴らしの良い会社」に行った方が良い。「見晴らしが良い」というのは、その会社の扱っている商品やサービスを通じて、業界全体を取り巻く状況を含めて、広く理解できるという意味だ。

あらゆる業界内で「見晴らしのよい場所」に位置する会社や職場があるはずだ。そういう立ち位置を見つけたら、業界内のルールや常識を勉強しなごら、工夫や改善のチャンスを見出す。そして業界の中で良い仕事をしている人々と関係を構築し、彼らに学んでいけば、いずれは強いネットワークが自分の周りにできていくはずだ。

ルネサンス。垣根を越えた様々な才能が集まることで、専門領域を超えて、お互いに影響を与え合い、その結果、イノベーションが爆発的に起きた。そうした人が集まる場所を「交差点」と呼ぶ。

人脈のネットワークを構築する時にも、自分自身がその「交差点」になる事で、人脈の価値が単なる足し算ではない、相乗的な価値を生むわけなのだ。

チームのメンバーが似たような専門分野の出身者である場合、イノベーションの平均的な経済価値は高いが、画期的な発明が生まれる可能性は極めて低い。

それと対照的に、「多様な専門分野の出身者からなるチーム」が生み出すイノベーションは、失敗の可能性も高く、平均すると金銭的価値も低くなるが、ひとたび画期的な発明が生まれると、その時点で最も優れた発明をはるかに凌ぐ高い価値を生み出す。(リー・フレミング/経営論の研究者)

自分の持っているリソースやバックグラウンドと、まったく異なる人とつながった方が、大きな価値が生まれる。そのつながりを「ウィークタイズ(弱いつながり)」と名付けた。異質の人と出会うことで、自分でも思いもかけなかった「掛け算の変化」が生まれるきっかけとなる。飛躍的にチャンスが広がる可能性が高まる。

「自分とは違うネットワークを持っている人」とつながることが、後々に大きな意味を持ってくる。

ギブしてギブしてギブしまくろう。ギブの5乗をすることにした。その結果、しばらくすると、自分のまわりに、私がかつて支援したことがある人達が集まってきた。「Sに助けてもらった」というつながりで、お互いに交流するようになり、いつの間にかネットワークを作るようになった。困っていると、そのネットワークの誰かが勝手に助けてくれるようになり、それが結果的に自分に大きなテイクをもたらしてくれるようになったのだ。

成功というのは、「その人のまわりの人の成功」によって決まる。ギブ&テイクの関係を一回ごとに築こうとすることに意味がない。とにかく「ギブ」をしまくっていることで、「ギブのネットワーク」がまわりに構築され、そのネットワークが大きくなり、情報や交流の流通量が高まれば高まるほど、もたらされるメリットも大きくなる。

成功のポイントは「行動をする専門家」を集めることができたこと。「ウィークタイズ」が決定的な役割を果たした。「弱いつながり」であっても、つながっている相手の「信頼性」がきちんと担保されていることが極めて重要である。大震災のような危機の時には、本当に役立つ人脈とは、それ以前の日常の交流を通じて、「信頼が蓄積されたネットワーク」だけ。

ネットワークは「自分がどういう人間か」で決まる。

ビジョンをぶち上げろ。ストーリーを語れ。
Give your vision, and repeat your story. 

身の危険を顧みず、勇気を持って冷たい海に飛び込む「一匹目のペンギン」のように、まったく新しい市場に、リスクを背負って打って出る人のことを、英語圏では「ファースト・ペンギン」と呼んで賞賛する。

従来の日本の教育は、工業化する社会の中で、決められたモノを、決められた手順で作るのに最適なスキルをもった人を生み出すためのものだった。これからの教育は、21世紀の世界を生き残る力を与えてあげることを目的として、それができるクリエイティビィテイとリーダーシップを持つ人を教師にしないといけない。(松田悠介/NPOティーチフォージャパン)

ビジョンを作る上で最も大切な事は、最初に「でかすぎる絵を書く」こと。その実現に向けて努力していくうちに、回り道をしているようでありながら、徐々にビジョンが現実のものになっていくのである。

最初に掲げるビジョンは大きければ大きいほど良い。同時に、それは「多くの人が共感できる普遍的なもの」でなければならない。そのビジョンを常にチームの全員が念頭に置いて行動しなければならないし、簡単に変えるのはもっての他だ。だが、最終的なビジョンが揺るがせないとしても、途中途中の「目的地」はどんどん変えて良い。

むしろ、様々な寄り道を経ることによって、外部や協力者からのフィードバックを得ることができる。その途上で「当初の目的」からより深化した「真の目的」が発見されて、最終的なビジョンに近づいていくことができるのである。

リーダーがビジョンを示し、それに賛同して集まった仲間とともに事業を継続していく中で、自然と自分のポジションが決まっていく。自分は「探す」ものではなく、「周囲との関係」で決まってくるのである。

強いチームを作るには、冒険者となって、ビジョンとストーリーを語れ。ビジョンを語る上で最も大切なことは、「でかすぎる絵を書く」こと。勇気を持ってぶち上げろ!

会社で生き残るには「自分以外の誰にも生み出せない価値」を生まねばならない。

「色々な分野に才能がある人」ほど、中途半端にどんなポジションにも適応してしまうので大成しない。「特定の才能しかない人」が「正しいポジション」に身を置いたとき、パフォーマンスは最大化する。「間違った場所」に行ってしまえば、その才能は発揮されないまま埋もれてしまうのだ。

コンサルティング会社は課題の解決に「他業界の当たり前」を応用する。他業種の先行する成功事例をもとに、テーラーメイドで新しい解決法を作り出す。テーラーメイドの解決法を創りだすときにも、鍵となるのは「チーム」の概念だ。その時重要なのは、コンサルティング会社のメンバーだけをチームと考えるのではなく、顧客も取引先も「あらゆる関係者」を、自分たちの「チームメンバー」であると見なすことである。

そのビジネスを取り巻く商流(商品の企画から生産、小売、顧客の手元に届くまでの流れ)全体がチームの意志と行動によって変革され、「その中にたまたま自社とそのビジネスモデルが存在している」という状況が生まれたとき、真に課題は解決され、自社に大きな利益がもたらされるのである。プロジェクトに関わるチームメンバーを、自社のスタッフに限定することは、自分たちが見落としている変革の大きな可能性の芽を摘むことになりかねない。

「顧客を自分たちの仲間に引き込む」という姿勢は、ベンチャーの経営では必須となる。まったく新しいビジネスは、それで上手く行ったという前例が無いゆえに、商品を買う側が大きなリスクを背負うことになるからだ。

どうすれば「最初の夢を買ってくれる顧客」をつかまえることができるのか。その答えこそが「顧客を自分のチームの一員に引き込む」ことである。

その商品を買うことで得られるメリットが事前にわかっている場合は、「どれだけ経済性があるか」「競合の商品に比べてどれくらい優れているか」という競争になる。その反対に、商品を買うことで得られるメリットがはっきりしていない場合は、顧客や投資先をチームに引きずり込み、その商品の「ファン」となってもらって、一緒に広報活動や販売に取り組んでもらえるぐらいにしないと、うまくいかないのである。

まずは「自分が所属する業界」について正確に、深い理解をする。その上で、自分の業界を大きく変える可能性のある「ネタ」について考える。その際「そもそも、その業界がある意味は何なのか」を気をつける。同時に「業界のキーパーソン」あるいは「ビジョナリー(先進的なビジョンを示す人物)は誰かを考えてみよう。自分の会社とその人とはどのような関係にあるか。その人物はどんなことを為そおうとしているのか。それを考えてみることで、自分がどのような道に進めば未来が明るくなりそうか、ヒントを掴むことができる。

今いる業界、会社の中で自分は何をしたいのか。今持っているスキルや知識や経験によって何ができるのか。自分の出自や過去の出来事で、大きなものは何か。そして大切なのは、それらを生かして「世の中でどのような貢献をしたいのか」という視点を持つことだ。「個人のアイアデア」が「社会の進歩」とつながったとき、その一人の脳内で生まれた思いつきが、社会を変える「ビジョン」となる。

ストーリーを人に話すときに大切なのは、その話に「ロマンとソロバン」があるかどうか。ロマンはビジョンに通じる。「自分はこのように社会を変えたい」という熱い思い。それがロマン。ロマンを実現するには、それと同じくらいソロバン(お金、時間、労力のコスト計算)をきちんと考える必要がある。多くの人が「お金を払ってでも解決したい」と思えるような非効率や満たされないニーズがあるからこそ、ロマンはロマンになりうるのである。

採用の時必ず次ぎの質問をする。「今まであなたがやってきた仕事で、最も会社を儲けさせたのは何でしょうか。チームでの仕事の場合、あなたがそこで果たした主導的な役割は何ですか」。これに答えられない人は採用しない。逆にきちんと仕事で結果を出してきた人は、この質問に即答できるはずだ。

日本の家電メーカーが生き残る道は、基本的に二つしかない。一つはアップルのように、それまで誰が見たこともないような並外れた製品のコンセプトだけを作り、実際の生産については、外部の会社に委託してしまう方法だ。もう一つの方法は、ニッチだが、特定の分野では非常に強い部品を提供する会社として生き残っていく。

「ぜひとも仲間に引き入れたい人物」がいるときに、アメリカの企業経営者は「大きなビジョンやテーマ」をその人に与えることがよくある。

その仕事の未来にある「社会的インパクト」と「その達成のために、あなたの力がどれだけ必要か」ということ。この二つを提示して、「世界を変えるようなビックビジネスを一緒にやろうぜ」と持ちかけるのである。

アメリカの強さは、できる人間にわけの分からない「下積み作業」をさせないことにある。人を育てるためには、アメリカのベンチャー企業よように、いきなりトップスピードの現場に放り込む事が一番早い。

今の日本企業には、「志が大きなチャレンジを数多く繰り出す」という姿勢が欠けている。だから、かつてのウォークマンのような革新的な製品を生み出せずに、どうでもいいような付加機能を「てんこ盛り」したモデルチェンジ商品ばかりが発売され続けるのである。

アメリカの凄いところは、一つの産業の隆盛が終わっても、次々に「タマ」を変えて繁栄を続けてきたところにある。その裏側には「自分達が市場のルールを作る」という強い姿勢がある。

組織には「目に見えるもの」と「目に見えないもの」がある。公的な組織の中で話されていることよりも、非公式組織の中で話される情報の方が、本質的に重要で、自社や業界の動向をいち早く捉えていることは少なくない。

大切なのは「冗長性の少ないネットワーク」をなるべく多く持つこと。「冗長性」とは情報科学でよく使われる言葉で「無駄や重複のある状態」のことを言う。つまり「冗長性の少ないネットワーク」とは、自分がこれまで所属してきたネットワークと、重なる部分が少ないネットワークのことだ。

「自分のことを知らない人達」ばかりいるネットワークの方が、自分にとって価値が高い。自社だけの狭い組織で働き続けていると、「自社の常識は非常識」の状態に、知らず知らずに陥っている。「他業界の常識」については、その存在すら知ることができない。だから、自分と全く関わりのない集団に入れば、自然と「外部の価値観」を知ることになる。

夢を語り合うだけの「友だち」は、あなたにはいらない。あなたに必要なのは、共に試練を乗り越え、一つの目的に向かって突き進んでいく「仲間」だ。必要なのは、同じ目標の下で、苦楽をともにする「戦友」だ。友達も仲間も他人から「配られるもの」ではなく、自分自身の生き方を追求することで、自然にでき上がっていくのだ。

「他人の作った作り物の物語」を消費するのではなく、「自分自身の人生という物語」の脚本を書き、演じろ。

(瀧本哲史『君に友だちはいらない』)

2013/11/24

あなたはなぜチェックリストを使わないのか?

アトゥール・ガワンデ『あなたはなぜチェックリストを使わないのか?』を読んだ。満足度★★★★★。

「危機管理⇒チェックリスト⇒コミュニケーション&チームワークの大切さ」がよくわかる。最後の方の「ハドソン川の不時着」の 話がハイライトであり、圧巻だ!チェックリストの効力も凄いが、航空業界の危機対応力も凄いな。仕事で役立てるためには、もう一度読み直せねば。

閉塞感ある日本の会社も「チーム」「コミュニケーション」の2つの改善を行えば、色々な意味でベースは良いだけに、相当いい成果が出るのではなかろうか。


【語録】

人間の記憶力や注意力には限界があるので、見逃しやミスはどうしても起きてしまう。チェックリストはそのような失敗を防いでくれる「安全網」なのだ。

プロによって設置されたが、それでも絶対に問題がないとは言いきれない。いつ何が起こるかわからない。きっと何か問題は起きる。だが、「しかるべき人達」を集め、「チームとして話し合う時間」を作ってやれば、深刻な問題を見極め、それを解決することができるはずだ。そのような信念でこの「チェックリスト」は作られていた。

建設業界の人々は「コミュニケーションの力」を信用している。たとえ経験豊富なエンジニアであろうと、一個人の力を当てにはしない。彼らが信用するのは「集団の力」だ。複数人を問題に取り掛からせ、「チームとして判断」してもらう。

「現状把握とコミュニケーションの円熟化」こそが、ここ数十年の建築の最大の進歩だ。建築業界の人々は、自分達のやり方に驚くほど信頼を寄せている。例えどんなに複雑で深刻な問題でも、「コミュニケーションを確実に取る」ことで解決していく。

本当に複雑な情況、つまり「一個人で知るのは不可能な量の知識を必要とし、不確定要素が多い状況」では、「中央から全てを指示」しようとすると必ず失敗する。これがハリケーン・カトリーナの本当の教訓。

誰にも予期できない、想定の枠をはるかに超えた大災害だった。しかし、それこそがまさしく「複雑な問題」の定義なのだ。「複雑な問題」に対処するには、昔ながらの「一極集中の指令システム」ではなく、「別の方法」が必要なのだ。

複雑な状況に一番うまく対応したのは、大手量販店のウォルマートだった。状況を聞くと「わが社はこの最大級の災害に対応していく。自分が持つ権限以上の決断を下さなければならない状況もたくさん発生すると思う。手元にある情報を元にベストの決断をしろ。そして何より、正しい事をしろ」。社長の命令はそれだけだった。それは各支店長にも伝わり、各自が取るべき姿勢が明確になった。

「各自が柔軟に行動できる余地」を与えるが、「お互い協力し合い、共通のゴールへの進み具合を確かめ合う」といった制約も設ける。複雑な問題に対処するには、「自由と制約の適度な配合」が欠かせない。

どの専門職にも「プロフェッショナリズム」というものがある。その職務の理念と義務をまとめた「行動の規範」だ。プロフェッショナリズムには三つの要素が必ず含まれている。

第一に「無私」であること。どの職業であれ、他人から責任を預かる者は、自分の利益よりも、頼ってくる者の問題や心情を考えるべきだ。第二に「腕」があること。技術と知識を日々研鑽することが求められている。第三に「信用」に足ること。自分の職務に誠実な態度で臨む必要がある。

航空業界の人は、そこに「四つ目」を加えた。「規律」だ。よくできた手順には絶対に従うこと。必ず他者と協力し合うこと。一人ではとても習得しきれない膨大な量の知識を要する現代医療では、「個人の判断」に任せるのは愚策だ。「古い価値観」にしがみついていては、良い医療は提供できない。本当に必要なのは、「絶対に協力し合う」という決まりを作り、常にそれに忠実であることだ。

「規律に忠実でいる」のは難しい。「信用に足る」ことや「腕がある」ことなどよりも難しく、「無私でいる」ことよりも難しいかもしれない。人間というのは「誤りやすく、気まぐれでな生き物」なのだ。私達は、新しくて刺激的なものには飛びつくが、「細部まで丁寧に目を配る」のは面倒だ、と思ってしまいがちだ。私達が「規律で忠実でいる」ためには、「意識的に努力」する必要がある。だからこそ、航空業界は「規律を守ることが当たり前」になるように尽力してきたのだろう。

チェックリストは、業務の邪魔となってしまうような「融通の効かない義務」であってはいけない。どんな単純なチェックリストでも、何度でも改訂して洗練していく必要がある。航空機メーカーが作るチェックリストには、必ず作成日が記されている。常に変わっていくものだからだ。チェックリストは「私達を補佐するもの」だから、その目的にそぐわないものは不要だ。だが、「私達を手助けしてくれる良いチェックリスト」は、受け入れていくべきだ。

現代の人々は様々な「システム」に頼っている。システムを機能させるのは本当に難しい。自分自身が努力するだけでなく、「その他の多くの要素が効果的に連携」しなくてはいけない。

医療と車は似ている。「良い部品を揃える」だけではダメなのだ。だが、医療業界は素晴らしい部品を集めるのに固執している。最高の薬品、最高の機器、最高の専門家を求める一方で、「それらをどう調和させるか」について、あまり考えていない。このやり方は間違っている。

少しでも「システム」について知っている者ならば、「各部をそれぞれ最高のものにしても、全体が良くなるわけではない」ということを理解しているはずだ。例えば、世界最高の車を作るために、世界最高の部品を集めたとする。フェラーリのエンジン、ポルシェのブレーキ、BMWのサスペンション、ボルボのボディーを組み合わせたとしよう。でき上がるのは、世界最高の車からはほど遠い、「高価ながらくた」だ。(バーウィック氏/医療システムの専門家)

私達が医療でやってきたのは、まさにそれだ。次々と「医学の発見」をしているが、「それらの発見をどうやって医療の現場に取り入れていくか」について、あまり考えていない。「失敗の原因を究明する機関」もない。「使い易いチェックリストを作るもの」もいない。「各月の結果を記録し、成績を分析するような機関」もない。数多くの分野が医療と似たような状況にある。日々の失敗を精査することは、まずない。「ミスの傾向」を調べようともせず、ミスが繰り返し起きていても、何も対策を講じない。

誰しもが「細部の見逃し、知識の誤適用、凡ミス」などに悩まされている。でも多くの人々は、「ひたすら努力を重ねる以外の解決方法はない」と思い込んでしまっている。

人間に飛ばせるかわからないほど複雑な機械(飛行機)を前にした彼らは「人間の限界」を認め、「チェックリストの力」に気づいた。「複雑化した現代に私達」に他の選択肢はない。素晴らしい能力とやる気を持った者でさえも、同じミスを何度も何度も繰り返していることに気づくはずだ。ミスは起き続けている。「今までのやり方」を変えていかなくてはいけない。「チェックリスト」を試してみて欲しい。

(アトゥール・ガワンデ『あなたはなぜチェックリストを使わないのか?』)

2013/11/17

オレたち花のバブル組

池井戸潤『オレたち花のバブル組』を読む。半沢直樹の第二弾。老舗ホテルの再建、銀行内の派閥争い、金融庁のボスと対決。満足度★★★★★。

半沢直樹の「倍返し」が、さらにパワーアップ!対決のハラハラ、ドキドキ感は、期待どおり。サイドストーリー(近藤さん)の方も「サラリーマン賛歌」的で面白かった。登場シーンは少ないが、嫁の花さんの活躍(?)も痛快モノ。

こりゃ、一気読みしてしまうがな。フィクションだから、展開を楽しみながら読めるが、これが現実なら、ドロドロの人間模様で、仕事どころではなくなるな。恐ろしや・・。

半沢直樹シリーズは、『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』と続いているようだ。「倍返し!」の楽しみは、まだまだ続く!

【語録】

・遠慮ばかりしていても、認められることはない。だったら思い切り「本音」で行こうじゃないか。「本当の自分」をさらけ出し、それでも認められねければ、しょうがない。

(池井戸潤『オレたち花のバブル組』)


2013/11/15

オレたちバブル入行組

池井戸潤オレたちバブル入行組』を読んだ。「やられたらやり返す。倍返しだ!」の台詞で、2013年にテレビドラマで大ヒットした『半沢直樹』の原作の第一弾。 責任を押し付けられた課長が債権回収と倍返しを図る。満足度★★★★★。

元銀行員である著者の池井戸潤氏の「銀行観」が、登場人物達の口を通して随所に現れる。銀行だけでなく、「組織の問題」としても「世の中、こういうものだ」と勉強になる。大組織の出世競争は、てーへんだ!


【語録】

元銀行員の経歴を生かして独立するのなら、本や雑誌に寄稿し掲載されるほど「書ける」か、何度かはある講演の機会を逃がさずリピーターが来るほど「話せる」かどちらか、あるいは両方のスキルがなければならない。俄かコンサルタントは看板倒れに終わるのがオチ。

銀行に長くいたといっても「専門的なスキル」がある者は少ない。しかも「元銀行員の看板、一流大学の経歴」は再就職先にとっても「使いにくい」と映る。元銀行員にもプライドがある。この「需要と供給のギャップ」が埋まらない限り、再就職は難しい。

大物の支店長ほど、行員をよく気遣い、守る。だから「人望」も厚い。

銀行員である前に「人」であれ。

銀行という所は「人事」がすべてだ。「ある場所でどれだけ評価されたか」、その評価を測る物差しは「人事」である。だが、その人事が常に公平だとは限らない。「出世をする者が、必ずしも仕事のできる人間ではない」ことは周知の事実。

古色蒼然とした官僚体質。見かけをとりつくろうばかりで、根本的な改革はまったくと言っていいほど進まぬ「事なかれ主義」。蔓延する保守的な体質に、箸の上げ下げにまでこだわる幼稚園さながらの管理体制。なんら特色ある経営方針を打ち出せぬ無能な役員達。「貸し渋りだ」なんだと言われつつも、世の中に納得できる説明一つしようとしない傲慢な体質。

「もうどうしようもないな」と思う。だからオレが変えてやる。そう半沢は思った。手段はどうであれ、出世しなければ、これほどつまらない組織もない。それが銀行だ。

池井戸潤オレたちバブル入行組』)