2015/12/19

下町ロケット2

池井戸潤『下町ロケット2 ガゥデイ計画』を読んだ。中小企業の佃製作所が、ロケット用バルブに続き人口心臓用バルブの開発に挑む。佃製作所vsサヤマ製作所の戦い。医療機器分野の開発の問題。下請を見下す大企業の横暴。組織の論理で出世のため権力をふりかざす医師。満足度★★★★★。

今年はビジネス書ばかり読んでいたので、小説を読むのは久しぶりな気がする。前回の直木賞受賞作品『下町ロケット』は5年前の作品なので、「凄く面白かった」以外は、どんな内容か詳細を忘れてしまっていたが、今回の続編も、読み応えありーの、感動ありーの、でとても面白かった。「大組織の弊害(官僚主義)」として、大企業と医療業界の問題、そして今回も「中小企業のモノづくりの苦悩」がリアルに描かれる。エンジニアとして共感する場面も多く、読書後に仕事に対するモチベーションがアップした。電池は1日にしてならず。


【語録】

・開発には「ブラックボックス」がある。理詰めや数式で解決できる部分は実は易しい。あるところまで行くと、理屈では解きあかせないものが残る。そうなったら、「徹底的に試作品を積み上げる」しかない。作って試して、またつくる。失敗し続けるかもしれない。だけど、「独自ノウハウ」っていうのは、そうした努力からしか生まれないんだ。スマートにやろうと思うなよ。泥臭くやれ。頭のいい奴ってのは、手を汚さず、綺麗にやろうとするキライがあるが、それじゃだめだ。

・組織の中にいて「出世する」ことに目覚めてしまった。若い頃ならともかく、だんだんと出世して権力を持ち始めると、その魔力に取り憑かれてしまうのかもしれない。組織ってのは往々にしてそういうもの。出世が結果ではなく目的になってしまった人間は、本来、「何が大切であるか」がわからなくなってしまう。人の命より、目の前の出世を優先するようになる。そういう人を最も確実に目覚めさせるものがあるとすれば、それは「挫折」。組織で頑張っている連中ってのは、出世競争から外れると、魔法が解けたように我に返ることがある。「いったい俺は何をやっていたのだろう」「人生にとって、もっと大切なものがあるんじゃないか」ってね。

・技術でいくら勝とうと、これはビジネスだ。受注できなければ、その技術は生かせない。その意味で足りなかったのは「営業戦略」ではなかったか。なまじ特許がある故に、単独開発以外の発想が無かった。あまりに「正攻法過ぎた」のかもしれない。

・実際に作るとなると、図面のままではうまくいかない。素材に関する知識と、求められる動きに合わせた微調整が必要。そこから先は極めて専門性の高い職人技だ。行くとこまで行っちまうと、一般論だけでは品質は語れないんだよ。そこから先は「経験」なんだ。その蓄積が「ノウハウ」になる。バルブは1日にしてならずってな。

(池井戸潤『下町ロケット2 ガゥデイ計画』)

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