2016/01/24

自遊人

カンブリア宮殿の今回のゲストは、雑誌「自遊人」社長の岩佐十良さん。「雑誌編集長」「旅館経営者」の二つの顔を持つ。

どちらも目的は「ライフスタイルの提案」。旅館経営の目的は「リアルメディア」。つまり、雑誌「自遊人」の提案内容を、実際に体験する「場」を作ったのが旅館「里山十帖」。岩佐さんの「志」が素晴らしい。「食」にこだわっているところにも共感する。とても面白いビジネス・ストーリーだった。

戦後、一般人の生活の中で、「テレビ⇒インターネット」という流れで、バーチャル(仮想空間的)なメディアが急速に発達した。人間は飽きやすいので、バーチャルが増え過ぎると、今度は反対に「実体験(リアル)」がほしくなる。その流れを的確につかんでいるのが、今回の岩佐十良さんが描く「リアルメディア」のビジネスモデル。

カンブリア宮殿の内容も、「紹介されるこだわりのビジネスモデルを知る⇒実際、サービスを体験する」という面白みがある。まさにリアルメディア。例でいくと「成城石井」「セゾンファクトリー」「ユーグレナ(ミドリムシ)」「コメダ珈琲店」など。いずれも、バリュープロポジション(「顧客が望んでいて」「ライバルが提供できない」「自社が提供できる」価値)の勉強になる。

雑誌「自遊人」は読んだことがないので、こんど書店でみてみよう。いつか旅館「里山十帖」にも宿泊してみたい。




【語録】

一度は泊まってみたい予約殺到の「体験型旅館」。新たな価値を地方でつくる。最新!体験型ビジネスの全貌。雑誌編集長が手がける「感動体験」ができる旅館。

舞台は、新潟の南魚沼市。150年前の古民家をリノベーションした旅館「里山十帖」。客室12部屋。一つとして同じ部屋がない。全てでコンセプトを変えている。

「旅のプロ30人が選ぶ日本一の名旅館」の温泉部門1位に選出。1泊2食付き、1人2万6904円から。客室稼働率は約90%(旅館の全国平均は約36%)。

雑誌『自遊人』の編集長。ライフスタイル提案。16年前に創刊。累計発行部数1500万部以上。

雑誌編集。旅館経営。旅館「里山十帖」は、本と同じ意味合いの施設で、僕らにとっては「雑誌の10個分の特集の要素」が詰まっている。10個の物語を提案する施設として、「里山十帖」という名前をつけた。

雑誌の中で提案した10個のテーマ「衣料」「食事」「住まい」「農業」「環境」「芸術」「遊び」「癒し」「健康」「集い」を実際に体験できる、リアルメディア。

稲作体験。食体験。住まい体験。ライフスタイルショップ「テーマ」。宿で使用している商品を販売。

宿泊する20時間で色々なことを体験してもらいたい。キーワード「リアルメディア」。メディアとして「雑誌で読む」よりも、「体験」してもらいたい。雑誌で「美味しい」というよりも、実際食べてもらった方が話が早い。確認作業よりも、最初に感じてもらった方が、その後勉強する場合でも、深く知ってもらえるし、より色々な情報を自分で得にいくようになると思う。

雑誌を作りながら、実は「リアルメディア」を持ちたいと思っていた。

旅館の概念が昔とは変わってきた。データで見ると、日本人が旅館に泊まる平均泊数が猛烈な勢いで減っている。理由の一つは「旅館が面白くなくなった」からだと思っている。今までの日本旅館は、「全てのお客様に満足してもらわねば」と、大きな宿も小さな宿も、みんなが思っていた。私としては「なんで」と思うとこがあった。

例えば、僕らが作っている雑誌は、ある程度ターゲットを絞る。ある特定の人が「自遊人は最高」と言ってくれればそれでいい。宿も同じように、「最高」という人と、「理解できない」という人がいてもいい。そうなってくると、雑誌に個性があるように、宿にも個性が出てきて、地域にも個性が出てくる。もっと日本の観光地や旅館に「個性」が出てくれば、業界全体が面白くなると思っている。

みんなが個性を出せば、もっと日本は面白くなる。

「焼肉店特集」を作ったときに、葛藤があった。語弊があるかもしれないが、正直言うと、「売れる本」をつくるには、載っているレストランはどこでもいい。「本当に美味しいかどうか」は、一切関係がない。極端な話をすると「写真の撮り方」「価格のバランス」「キャッチコピー」だけで、正直なところ「売れる本」は作れる。究極に突き詰めて言えば、題材が何であれ、本を売ることはできた。

「本当にいいもの」だけを伝える雑誌を作りたい。自ら出版社を立ち上げる。2000年、雑誌「自遊人」を創刊。宿が持つストーリーを、写真と文章でちゃんと表現したかった。今まで重視されていた「値段が安い」「コストパフォーマンス」「情報の鮮度」などは、どうでもいい。最高発行部数16万部。

重要なテーマの一つが「食」。インターネット販売も始めた。「本当にいいもの」を体験してもらう。

「食」を重視する理由。単純に「人間の身体は水と食べ物からできている」という話の中で、「健康な人」と「不健康な人」で何が違うのかを考えたら、「食べ物は凄く重要ではないか」と考えるようになった。色々な飲食店を取材する中で、その舞台裏をみていくうちに、やはり「食」によって差が出ると感じた。

「雪国A級グルメ」を認定して紹介。「永久に守りたい味」ということ。認定基準は、米は新潟、群馬、長野の指定地域のものを100%使用、野菜は県内産のものを50%以上使用し産地も公開、調味料は無添加・天然醸造で伝統的な手法で作られたものを使用。

B 級グルメは、戦後の苦しかった時代の食文化だと思っている。街おこしには大事。一方で、その土地本来の食文化が小麦粉(B級グルメ)の陰に隠れてしまっている。その隠れてしまっている、特に「お米を中心とした食文化」を、「永久」に残したい味として、掘り起こして、一緒に考えていこう、と呼びかけている。

(岩佐十良/自遊人社長/カンブリア宮殿