2013/08/25

零戦

独特の考え方、哲学のもとに設計された「日本人の血の通った飛行機」、それが零戦。

堀越二郎『零戦』を読んだ。零戦の主任設計者であった著者が、零戦のアイデアから完成、終戦までを記録する。満足度★★★★☆。

飛行機の開発では後発であった日本が、後に伝説となる名機「零戦」を生み出し、一気に「世界一の性能」を誇るようになる。「どのようにその零戦が生まれたか」という話を、零戦の生みの親(主任設計者)が時代背景とともに詳細を解説する。そりゃ、面白い訳だ。戦闘機マニアの宮崎駿監督が映画の題材にする訳だ。

研究開発者としての「考えて、考え抜く(仮説⇒フィードバック)」ことと、「実行(現実に落としこむ⇒実現させる)」の大切さがよくわかる。飛行機は「人命」に直に関わるので、設計思想や試作の難易度は、相当ハードルが高い。しかも、後発から始めなければならない「環境的にとても劣勢な状況」から、世界一のモノづくりを目指し、やり遂げた。

宮崎駿監督のいうように、堀越二郎に「熱狂」がなければ、できなかっただろうなぁ。「世界一のモノづくり」をするならば、研究開発者は、良い意味でマッドサイエンティスト(Mad scientist)やマッドエンジニア(Mad engineer)である必要があるのだろう。熱狂かつ冷静な頭脳。

日本の技術者と現場は「世界一のいいモノづくり」をするが、「戦略」で欧米に劣り、最終的に敗北する、というのは、零戦もそうだし、「半導体」など戦後のモノづくりも同じような気がする。「リーダー育成」や「組織力」に力を入れた方が、費用対効果が大きいのではなかろうか、と皆さん思うが、結局うやむやで実行できないのが、これぞ「日本的」なところ。

この「日本的な非効率なところ(トップがダメで、現場が優秀)」が、「技術者と現場で、世界一のいいモノづくりをする土壌」になっている、ということも考えられるので、微妙なところ。トップが優秀で、トップダウンで全部口出しすれば、現場や研究開発者の「熱狂」は生まれないのかもしれない、というジレンマ。さて、どうしたことやら、堀越二郎さん・・。

ジブリ映画『風立ちぬ』を観て、関連書であるこの本を読む動機になった。次ぎは、もう一つの原作、堀辰雄『風立ちぬ』を読もう!



【語録】

・当時の世界の技術の潮流に乗ることだけに終始せず、世界の中の日本の国情をよく考えて、独特の考え方、哲学のもとに設計された「日本人の血の通った飛行機」、それが零戦であった。こんなところに、零戦が今も古くならず、語りづがれている理由がある。

・自分の仕事に根深くたずさわった者の生涯は、一般の人の生涯よりも激しい山と谷の連続である。(イゴール・シコルスキー/ヘリコプターの父)

・堀越二郎は、人前では実に平静を装って円満に見えるけど、「やりたい事を何とかやりたい」と思っている。実は、要求に応えて零戦を作ったんじゃなくて、「自分のやりたい事に軍の要求を合わせた」だけなんじゃないだろうか。熱狂があったはず。それは「美しいものを作りたい」という熱狂。(宮崎駿)

・アイデアというものは、その時代の専門知識や傾向を越えた「新しい着想」でなくてはならない。そして、その実施は人よりも早くなければならない。戦果をうるには、時代に即応するのではなく、時代より先に知識を磨くことと、知識に裏付けられた勇気が必要である。後進国が先進国と肩を並べるには、それだけの覚悟が必要なのだ。

・これを銘記しないと、「どんな企画でも、今目の前に見ている世界の一流品を目標にして、それに近づくための演習に終わってしまい、これを抜くことができなくなるおそれ」があるのである。

(堀越二郎『零戦』)

0 件のコメント:

コメントを投稿